スポーツのすゝめ vol.02

勉強もスポーツも「戦略立案と実行」で強くなれる プロ・ランニングコーチ 金哲彦さん

プロフィール

八幡大学付属高等学校(現在の九州国際大学付属高等学校)の3年次に高校駅伝福岡県 予選で区間賞を獲得。早稲田大学に進み、箱根駅伝では上りのスペシャリストとして知られ、4年連続で5区を担当。区間賞を2度獲得するなどし、1984年・1985年には優勝に大きく貢献した。卒業後、リクルートに入社。別府大分毎日マラソン3位(1987年)、東京国際マラソン3位(1989年)。1995年リクルート陸上競技部監督に就任。2002年NPO法人ニッポンランナーズを創設、理事長として新しいスポーツ文化の構想を推進している。また、テレビやラジオの駅伝・マラソン解説者としても活躍している。

兄と瀬古選手を追いかけた。

Q1.陸上の長距離を始めたきっかけは?

A1.小学生の時にサッカーと陸上競技(1000m、幅跳び)で学校から選抜されて競技会に出場しました。特に1000mで好成績を収めた記憶があります。また、5歳上の兄の影響も大きかったと思います。当時福岡では競技会での成績上位者は保健体育の教科書に名前が載るという特典があったのです。教科書に載っている兄の名前をみて、「自分も絶対教科書に載ってやる!」と思ったものです。でもサッカーも大好きだったので、兄がいなかったらサッカーをやっていたかもしれませんね。短距離はそれ程速くはなかったと思いますが、脚力は強かったのでキック力には自信がありました。本格的に陸上を始めたのは中学からです。

Q2.影響を受けた選手はいましたか?

A2.瀬古さんの大ファンでした。マラソン走者としては圧倒的なヒーローでした。オリンピックのメダルはなかったのですが、記憶に残る選手だったんですね。野球で言えば長嶋さんのような存在です。

徹底的に分析して「取捨選択する」「イメージづくりを行なう」

Q3.大学はスポーツ推薦ではなく、一般入試で早稲田大学にお入りになったそうですが、勉強とスポーツの両立は大変だったのでは?

A3.目標を立てて、その達成のために戦略を考えるのが好きでしたし、得意でもありました。それはスポーツでも勉強でも共通していました。東大に受かる人は地頭の良さよりも勉強の仕方が上手いんだと思います。自分なりの成果の出し方を知っているんですね。つまり、現状を自己分析し、何が必要かを把握した計画をたて、かつそれを実行できる人が成果を出すんです。早稲田の受験は3か月で受かる勉強方法を考えました。試しに予備校に行ってみましたが、ここに頼っていては受からないと判断して、独学の道を選びました。赤本を購入して、勉強範囲の中で捨てるところ、完璧にするところを自分で仕分けしましたね。赤本以外の参考書の類もほとんど買いませんでした。

Q4.スポーツにおいて戦略性を発揮されたエピソードを教えてください。

A4.大学1年生の時に箱根駅伝の5区を任されることになりました。5区は俗に「山上り」と呼ばれ、標高差800m以上を駆け上がる特殊な区間ゆえに大差が付きやすいんです。だから、綿密なレースプランが必要だと考えました。本番の2か月前にリハーサルでコースを走れるんですが、その時までにレースプランを練る必要があると考え、先輩方の過去のデータを1km毎に徹底的に分析してレースイメージをつくりました。5区は相当な脚力とスタミナが要求されますが、闇雲にトレーニングするのではなく、数字の分析から入ったことが好成績につながった要因の一つだと思っています。

現代の子どもにとって、外遊びの代替え品がスポーツ。

Q5.長距離競技で伸びる子と伸びない子の差は何でしょうか?

A5.走る姿をみれば大体分かりますね。長距離ですから心肺機能の強さは大前提になるのですが、それ以上に重要なのが体のバランスです。筋力は後から付けることができますが、バランス感覚は子どもの頃にどんな生活を送っていたかで決まってしまうのです。この感覚は山や川など自然の中で遊ぶ経験によって無意識に育てられるのが理想です。例えば、小川を渡るとき飛び石を跳びますよね?そんな行為の中で培われたバランス感覚が重要なんです。東京では近所に自然に触れられる環境がないから車に乗せて田舎まで連れて行かなければらない。私も自分の子どもに自然に触れさせる努力をしましたが、残念ながら限界がありますね。ではどうするか?スポーツを代替え品にするしかありません。色んな種類のスポーツをするのが理想です。
また、コーチの指示をただ忠実に守って練習している選手は短期的には伸びることもありますが、長期的には伸びませんね。選手は自立すべきだし、コーチもそれを促すべきです。自分に何が必要なのかは、自分が一番分かるはずなのです。自ら考え、その上でコーチのアドバイスを参考にすべきです。コーチが変わったら全くダメになってしまう選手がいますが、こんな不幸なことはありません。

自信によって見違えるように早くなる子どもがいる。

Q6.長距離を始める適齢期はありますか?

A6.あまり早期から専門的にやらない方がいい。長距離は練習が苦しいから、幼い子はは嫌になってしまいます。小学生だと親が熱中し過ぎることも問題ですね。やらせればやらせるほど記録も伸びるので、親がヒートアップしてしまうんです。小学生までは遊びも含めて色んなことをやって、中学生からのスタートで十分です。

Q7.子どもにとって長距離という種目の他のスポーツにはない魅力とは何でしょう?

A7.長距離は大勢で走ります。時には100人を超えるような集団の中で一番になるのは快感ですよ。短距離種目は最大でも8人ですから(笑)。

Q8.脚の遅い子を速くすることはできるのでしょうか?

A8.ニッポンランナーズには、脚を速くするためのジュニア・ランニング部門があります。運動会の徒競走で6人中毎回6位の子を1位にすることは難しくても2位や3位にすることはできますよ。そもそも毎回ビリの子は速く走ることを諦めているんです。だから自信を持たせてあげることが重要です。走り方のメソッドを教えた上で、それが少しでもできたら褒めることで自信をつけていきます。数カ月で見違えるように速くなるお子さんをみて、嬉し泣きされるお母さんがいますよ。子どもは自信を持てば如何様にも変わります。

インタビューを終えて

日本には文武両道という言葉があるように、スポーツと勉学は高次元で両立し得るもののはずです。金さんは正にそのお手本のような人であり、両立を成し得るためファクターが戦略性と行動力だったとのこと。これが現在のビジネスでのご成功にも生かされているのは明白です。
子どもはスポーツと勉学の両立を目指すべきだと思います。そして、自分なりの成功のファクターを見つけて欲しい。それが、社会に出てから役に立つのです。
取材当日道に迷い、遅刻するという大失態を犯してしまいました。にもかかわらず、次のアポイントぎりぎりまで終始笑顔でご対応いただきました。深謝するとともに感謝の気持ちで一杯です。(2011.4.27)

NPO法人SKiP理事長 新井茂


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