スポーツのすゝめ vol.07
プロフィール
高校サッカーで活躍し、新潟県選抜選手に選出される。1986年株式会社トップカルチャーを創業。2000年店頭上場、2005年東証1部上場。池田弘氏(株式会社アルビレックス新潟/取締役会長)、中野幸夫氏(Jリーグ/専務理事)と共にアルビレックス新潟の設立に参画し、1996年アルビレックス新潟の取締役に就任。2007年グランセナフットボールクラブ設立。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の社外取締役、TSUTAYA STATIONERY NETWORK株式会社の取締役副社長や事業創造大学院大学の客員教授を務めるなど活躍は多彩。
株式会社トップカルチャー
http://www.topculture.co.jp/company/
グランセナフットボールクラブ
http://www.granscena.jp/
小学生の時に高校生とサッカーの試合をした。
Q1.どんな少年時代を過ごされましたか?
A1.両親は新潟で農業を営んでいました。わりと大きな農家だったからか、色々な人が出入りしていたので、大人と接する機会が多い子でした。親から小遣いをもらわない代わりに、家で栽培していたスイカを売っていました。子ども時代というのは欲しい物がいっぱいあるもの。資金をつくり出す手段として子どもなりに知恵を絞って、たくさん売りました。両親が株式を運用していたので取引を見聞きする機会もありました。今思えばこの時期に商売というものが身近な存在になり、商いの本質を自然に学んでいたような気がします。
Q2.サッカーとはどのように出会ったのですか?
A2.私が小学生の頃はサッカーよりも野球が盛んで私も野球をやっていましたが、5年生の時に恩師である三沢先生が学年毎にリーグ戦をつくりサッカーを始めたのをきっかけに、サッカーにのめり込んで行きました。当時の三沢先生の言葉を今でも鮮明に憶えています。「地球には海と山しかない。だから、冬はスキーを、夏は水泳をしなさい。地球を隅々まで楽しめるから。そして、スポーツはサッカーをしなさい。世界中のどこにいても、誰とでも友達(アミーゴ)になれるから」
三沢先生はユーモアがあり 形に囚われない柔軟な発想をお持ちの先生でした。6年生の時に高校生と試合をしたことがあります。今ではあり得ませんよね(笑)。一方で礼節にはとても厳しい方で、礼儀・作法を徹底的に叩き込まれました。また、中学生の時にメキシコオリンピックで活躍する釜本氏のプレーに魅了されました。テレビの前ですごく興奮したのを今でもはっきり憶えています。
規律とマナーがないチームは強くなれない
Q3.グランセナフットボールクラブの概要を教えてください。
A3.新潟市に面積33,000m2の敷地を持ち、人工芝のフルコートを2面、フットサルコートを3面有しています。クラブハウスにはジムやシャワールームを完備しており、レストランで食事をとることもできます。「世界に通じるサッカー選手を輩出する」「アマチュアNo.1のサッカーチームをつくる」というビジョンを掲げ、選手育成事業とスクール事業の両立を図っています。スクールマスターである釜本邦茂氏を筆頭にした優秀なコーチ陣が12年間の一貫指導を行っています。
私は経営に専念し、現場には一切口を出しません。経営を黒字化させる一つの要因として広告収入の貢献が挙げられます。グランセナには選手や保護者だけでなく、様々なイベントの来場者を含めると年間25万人が訪れます。その実績をもとに施設内に110枚の看板広告が設置されています。
Q4.子どもたちにどんな指導をしているのですか?
A4.スポーツの本質は「楽しいから頑張る」に尽きると考えています。特に小学生のうちは楽しませることが何よりも優先されるべきで、勝負は二の次でいいのです。楽しいからこそ、もっと上手くなりたいと願い、自ら努力するようになるのです。そして、努力が実を結び上手くなってくると、努力する習慣が自然に身に付いてきます。目標を立てて、達成のために努力を重ねるというプロセスを実践できるようになるのです。
また、規律とマナーの習得を徹底しています。規律とマナーがしっかりしていないチームは、ここぞという場面でミスをしますし、運もついて来ないから勝てません。普段から気配りができない自分勝手な子は良いパスも出せないですし、人の話を聴く姿勢を持てない子は成長できません。私はチームがバスから降りてきた瞬間に強いかどうかが分かります。
バルサのジュニアユースは週3日しか練習しない
Q5.教え方で重要なポイントを教えてください。
A5.自ら考えさせることがとても大事です。コーチが答えを教え過ぎると、子どもは教えてくれるのを待つようになってしまうのです。コーチは公認指導者のライセンスを取得するのが一般化してきました。それ自体はもちろん良いことなのですが、コーチが習得した指導法で子どもを型にはめるようになると問題です。指導者は指導法を習えば習うほど子どもを型にはめたがる傾向があります。サッカーの醍醐味はプレースタイルが自由なところですから、型にはまったプレーしかできない子どもを生んではいけません。昔は細かい練習方法などもなかったから、子どもは自分たちで考えて自由にやっていて、それが面白かったものです。
日本のサッカーがもう一皮むけるためには、指導法を十分に理解した上で、安易に教えず、子どもに考えさせるコーチが増える必要があると思っています。子どもの試合を観ると、子どもに事細かに指示を出し、自分の思い通りにならないと、怒り散らしている指導者をよく見かけますが、ナンセンスな話です。考えさせて、自ら答えを見つけさせる。指導者はその手助けをするだけで十分です。仕事でも全く同じです。やらされたことより、自分で考えて実行したことの方が達成感が大きく、成長につながる。その喜びを子どもに教えるべきです。
Q6.FCバルセロナの選手育成組織(カンテラ)を視察に行かれたそうですね。
A6.日本では中学・高校のスポーツ活動の中心は部活動ですが、スペインではFCバルセロナのようなクラブチームがスポーツ活動の中心的役割を担っています。スペインの選手育成は7~19歳までの子どもたちが6つのカテゴリーに分けられて行われています。ジュニアユースの選手は個々に代理人と契約しており、ユースの選手はクラブから給金が支給されます。チーム内の競争は熾烈ですが、彼らは日本の部活動のように毎日長時間の練習をしているわけではありません。ジュニアユースで週3日、ユースでも週4日です。サッカーは発想力が豊かでなくてはならないスポーツですから、子どもの時はサッカーだけでなく色んなことを経験して、様々な刺激を受けた方が良いのです。もちろん勉強も含めてです。また、彼らはプロ選手と同じサイクルでシーズンを過ごしますから、サッカーをしないオフシーズンがあります。その時期はサッカー以外のスポーツをして楽しんでいます。異なったスポーツで違う筋肉を使い、今までにない身体の動きをすることがサッカーにも活かされるのだと思います。
インタビューを終えて
清水さんとは早稲田大学大学院にて共に学びました。自己紹介で「1年中仕事をしていて1日も休まない。仕事が楽しくてしかたないから、仕事を仕事と思ったこともない」と仰っていたのが印象的でした。残念ながら本文で紹介できませんでしたが、インタビューの中で商売の原理・原則を拝聴させていただき、とても勉強になりした。清水さんはグランセナFCをフランチャイズ方式で全国展開することを目論んでいます。ビジネス界で成功を収めた起業家がスポーツ界にそのノウハウを展開することに大きな意義を感じます。(2011.11.24)
information
「日本にFCバルセロナが生まれる日」<単行本> ポプラ社
http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=80007630